私たちマーキュリッチが用意している研修メニューの中に、「プレゼンテーション研修」や「ロジカルプレゼン研修」といった、話す力、伝える力を鍛えることを目的としたプログラムがあります。
企業の研修担当者の方とお話をしていると
「どうもうちの会社には、物事をわかりやすく説明するのが苦手な社員が多いんですよね。もっと伝える力がつけば、お客さんとの商談もスムーズに進むと思うのですが…」
という悩みを口にされる方が少なくありません。
また実際に受講者の方と話しても、話すこと、伝えることに苦手意識を抱いているビジネスパーソンが多いと感じます。そのためこれらの研修は非常に人気が高く、受講者の姿勢も熱心であるのが特徴です。
「みなさん、本気で話す力、伝える力を身につけたいと思っているんだな」という真剣さが、講師である私にも伝わってくるぐらいです。
話す力、伝える力を構成する要素とは?
では、話す力、伝える力はどういう要素から構成されているのでしょうか?
主には、
- 構成力 : 論理的に、わかりやすく構成する力
- 発展力 : 興味深い観点、切り口で発展させる力
- 言語化力: 言語化、メッセージ化する力
- 表現力 : 印象良く、インパクトある表現力
といったものが挙げられます。
どれも重要で、習得がそう簡単で無いものばかりだと思います。
その中でも、比較的悩んでいる人が多いのが、3つめの言語化力です。
研修の場で、以下のような質問を受けることが少なくありません。
と。
確かに、この「適切な言葉がパッと出てこない」という悩みには共感できる方も多いのではないでしょうか?
言葉が出てこない理由を考えてみる
そもそも、なぜ適切な言葉が出てこないのかを考えて見ましょう。
- 語彙が少ない
- 言語化の瞬発力不足
- 緊張や焦りで頭が一杯一杯になってしまう
などが考えられます。
もちろん、上記のそれぞれの課題に対する打ち手はありますが、もっと本質的で、効果的な対策があります。
それは、「論理の組み立ての力」を養うことです。
言語化力の前に、論理の組み立ての力を養う
上記の「どうすれば言語化力を高められるか?」という受講者の質問に対して、私はいつも以下のように答えています。
と。
つまり、人に話がうまく伝わらない一番の理由は、「言語化力の弱さ」ではなく、「筋道を立ててわかりやすく伝える力の弱さ」にあると私は考えているのです。
話がわかりにくい人は、論理が飛躍していたり、話の前後関係が不明瞭だったり、その結論に至った理由がよくわからなかったりするものです。
逆に言えば、論理をしっかりと組み立てて、結論に至った理由を筋道を立てて話すことさえできていれば、適切な言葉が少しぐらいうまく出てこなくても、相手に伝わります。
それが証拠に、仮に言葉がうまく出てこなかったり、ドンピシャの言葉で表現できなくても、「つまり●●ということですね」というように、相手がうまく補ってくれることがよくあります。
筋道立てて、わかりやすく伝える力のトレーニング
では「筋道を立ててわかりやすく伝える力」は、どうすれば鍛えられるのでしょうか。
言うまでもなく、普段からさまざまな場面において論理的に話すことを心がけることが大事になるのですが、それと同時にぜひ採り入れてほしいのが「書く」ことです。
自分の考えを相手に伝えるための手段には、「話す」ことと「書く」ことがありますが、話す場合、少々論理が破綻していても、表情やしぐさ、トーンで何となく相手に伝わったりします。
また質疑応答などを通じて、もう一度相手に説明し直すというチャンスも残されています。ところが「書く」ことの場合、基本的には一方通行ですし、こちらが言いたいことをニュアンスで相手に何となく伝えるというのは不可能です。
論理の組み立てに、かなりの神経を使わなくてはいけません。
だから書く訓練を継続的に続けていると、筋道を立ててわかりやすく伝える力も自然と高まっていくのです。
業務日報をトレーニングの一部として組み込む
そこでオススメなのが、一歩踏み込んだ形で業務日報を書くようにしてみることです。
その日の業務の中で、うまくいったことや反省点を取り上げ、「なぜそうなったのか? 次に活かすにはどうすればいいのか?」を自分なりに分析し、書き出していくのです。
分析には論理的な思考が不可欠となりますから、文章も論理的に書かざるを得なくなるわけです。
管理職や人事教育の立場にある方で、「社員の伝える力を高めたい」と考えていらっしゃるようでしたら、ぜひ社員の業務日報の書き方に、ひと工夫を加えてみることを推奨いたします。
1つの効果的な方法は、社員が書いた業務日報に、上司がコメントを書く仕組みを採り入れることです。
「上司が読んでいる」という意識が働くと、「わかりやすく書かなくてはいけない」という緊張感が生じ、いいかげんな気持ちで書くわけにはいかなくなります。
また上司からコメントをもらうことで、「この書き方では、きちんと伝わらないんだな」とか「この部分は確かに意味が通じにくいな」といった気づきを得ることもできます。
弊社マーキュリッチのプレゼンテーション研修での場合
実はマーキュリッチの研修でも、「書く」ことをとても重視 しています。
さすがに「業務日報」自体を研修で取り入れるのは無理があるので、少し応用した形で運用しています。
たとえばプレゼンテーション研修では、各受講者にみんなの前でプレゼン演習をやってもらうのですが、そのときほかの受講者には、そのプレゼンテーションへの分析コメントをシートに書いてもらうようにしています。
その上で、フィードバックコメントを言ってもらいます
(このあたり詳しくは「分析眼トレーニングという考え方」をご覧ください)
すると、しっかりコメントを書き込んでいる受講者と、あまり書かずに済ませている受講者とでは、コメントの質がまったく違ったものになります。
あまり書かずに済ませている受講者のフィードバックは、論理的に飛躍していたり、散漫なものになりがちです。
一方で、分析コメントをたくさん書き込んでいる受講者のフィードバックは、ポイントを突いており、話の筋道がわかりやすいものが非常に多いのです。
これは「書く」という作業を通じて、論理の組み立てをしっかりと行っているからにほかなりません。
このように「書く」ことによって論理的に思考する力、筋道を立てて伝える力を鍛えていけば、「話す」ときにも、論理的に筋道を立ててわかりやすく話すことができるようになります。
つまり「書く力」をつけることは、「話す力」をつけることにつながるのです。
みなさんの周りに、話すことや伝えることに苦手意識を抱いている社員がいたとしたら、「書く」ことを勧めてみてください。
日々の業務や研修などにおいて「書く」場面を増やすことは、社員の話す力や伝える力を鍛えることに必ず直結するはずです。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。