リーダーとして最も大事な役割の1つは、メンバーの力を最大限に引き出すこと。そのためには、メンバーの状況に応じて適切に「伝える」スキルが必須です。
そういう意味では、「伝え方が9割」と言ってもいいでしょう。
そこで今回は、「リーダーは、『どんな場面で』『何を』『どう』伝えると、メンバーの成果・成長・成幸を大きく向上させることができるか?」について、具体例を交えながらお伝えしていきたいと思います。
リーダーにとって重要な伝える場面
「リーダーこそプレゼンの名手たれ」
この言葉は、常々私が声高に訴えていることの1つですが、何も顧客に対する「ここ一番」のプレゼンだけのことを言っているのではありません。実は、それと同じくらい大事な場面があります。
メンバーに対して「Why」を伝える、つまり仕事の目的や意義、重要性を伝える場面です。
例えば、
- 重要な仕事を指示する際に「何のためにこれをするのか?」を伝える
- タスクの進捗を確認する際に、改めてこの仕事の目的を刷り込む
- モチベーションが落ちているメンバーに、今の仕事のやりがいや意味を 思い起こさせ、やる気スイッチを入れてもらう
などが挙げられます。
「『プレゼン』という表現はちょっと大げさすぎるのでは?」と思ったかもしれません。
ただ、私の指導経験上、この「Why」を伝えることを軽視しているがゆえに、充分な効果を出すことができていないリーダーが少なくありません。だからこそ、私は敢えて「プレゼン」と呼んでいるのです。
逆に、うまく「Why」伝えることができると、メンバーの仕事ぶりを改善することができ、成果に直結していきます。そう考えると、リーダーにとって大事なプレゼン場面と言えるはずです。
ただ、一口に「Why」と言っても、大きく3つの種類があります。それらを意識した上で、適切に使い分けることが重要です。
3つの「Why」とは、
・本人軸のWhy
・社会軸のWhy
です。
ではそれぞれの概要と、「どんな場面で、どう使うのが効果的か?」の指針をお伝えしましょう。
仕事軸のWhyとはどんな場面で使われるのか?
まずは、「仕事軸のWhy」。
仮にあなたがメンバーに、ある資料の作成を指示するとします。その際、
「どれくらい重要なのか?」
を語るのがこれにあたります。
メンバーに仕事をアサインするときは当然のこと、意外と盲点なのが「仕事の中間報告をしてもらうとき」です。人は、「目的」すなわち「Why」をすぐ見失いがちです。そして、他人から指示されたタスクは、よりその傾向が強くなるもの。
したがって、「確認だけど、この仕事の目的・ゴールは○○なので、基本の流れは良いけど、もう少し××のところを△△の方向性で深堀りしてもらえる?」と伝えることで、より適切にチューニングさせることが可能になります。
この「仕事軸のWhy」を端的に、かつ適切な表現で伝えるのは意外と難しいもの。そういう意味で、「これもプレゼン」と思って臨むことが肝要なのです。
この「仕事軸のWhy」は、基本中の基本なのですが、時としてそれだけではうまく機能しない場合があります。
それは、メンバーが今ひとつその仕事に意義を感じることができていないとき。
そんなときこそ、次の「本人軸のWhy」のお出ましになります。
本人軸のWhyは視点を高くもたせることが可能になる
具体的には、「その仕事が、メンバー本人にとってどのような意味があるか?」「今後の成長、ひいては本人のキャリアにどうつながるか?」を語ること。
これに関して、私自身がまだ若手だったときのエピソードをお話ししましょう。
あるプロジェクトのメンバーに指名されたのですが、私が一番若手だったということもあり、雑用ばかりさせられ、退屈すぎて苦痛を感じるほどでした。明らかにやる気をなくしている私に気づいたリーダーが、こう言ってきたのです。
「西野、このプロジェクトは顧客のビジネス全般に関してのコンサルティングだ。この機会にお客様のビジネスプロセス全体をよく観察し、研究してみろ。視野が広がり、俯瞰してビジネスを見ることができるようになる。そうすると、このあと研修営業の仕事に戻ったときでも、より提案の幅が大きく広がり、成果と成長に大きくつながるはずだ。この年次でこの経験ができるのは貴重だぞ」と。
私は、「確かにそれは一理あるな」と感じ、次の日から新鮮な気持ちでそのプロジェクトに関わることができ、大きくモチベーションが上がったことを今でも覚えています。
このリーダーの方は、まさに見事な「本人軸のWhy」プレゼンによって、私のやる気をグイっと引き上げてくれたのです。
さらに視点を高める社会軸のWhy
最後に登場するのが、3つめの「社会軸のWhy」です。
ひと言で言うと、「その仕事が社会にどんな貢献をしているのか?」を熱く語ること。実際は、たまに語ることで十分と思いますが、その際うまくできると効果は絶大です。まさにリーダーのプレゼン力の腕が試される極めて重要な局面と言えます。
これに関する松下幸之助さんの有名なエピソードをご紹介しましょう。
その昔、まだ電球があまり普及してなかった頃、工場では「電球を布で磨くだけ」という仕事があったそうです。つまらなさそうに、電球磨きをしているある従業員に向かって、松下幸之助さんがこう言いました。
「君は君の仕事でたくさんの人を助け、幸せにしてる。夜道で怖い思いをしている女の人が、君が磨いた電球によって安心して歩くことができるようになる。君、ほんまええ仕事しとるな~。」と
その後、その従業員はやる気になってイキイキと仕事に取り組んだとのこと。
「電球磨き」という一見つまらなさそうな仕事を「社会貢献」に繋げてプレゼンすることが、まさにリーダーが出す真の価値の1つなのだなと改めて確認できるエピソードだと思います。
「おっしゃったように、常に根本に遡ってやることの意味を考えることは非常に重要です。意義や目的を忘れて手段に走ると、失敗する確率が高まりますから。だからこそ、ここで改めてその意義・目的を確認させていただきます。大きく3つの目的があると考えています。まずは、、、、、。非常に鋭いご指摘、ありがとうございました!」
「3つのWhy」を語るプレゼンの重要性をご理解いただけたでしょうか?
もっと言うなら、「Whyを伝える」場面のみならず、全ての話す場面をプレゼンテーションと思って欲しいと思います。
なぜなら、リーダーの1つ1つのコミュニケーションが周囲に大きな影響を及ぼすから。そして、それはまさにメンバーと組織の成果に大きくつながるからです。
リーダーの方は、「日々是プレゼン」と肝に銘じて、日々のマネジメントを行って欲しいと思います。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。