ヒアリング力は以前にも増して注目されているテーマです。
「もっとうまく相手の思いや課題を聞きだせると、良い提案や解決策を提示できるのに・・・」と感じる人も多いのではないでしょうか?
私自身、若手の営業担当者だった頃はなかなかヒアリングができずに苦労しました。「商談では、2割話して8割聞け」とよく言われたものの、うまく実践できませんでした。
上司へ先輩にアドバイスを求めても、「場数だ。経験だ」の一言で片づけられるのがほとんどでした。
ある先輩に「聞くことをリストアップして臨め」といったアドバイスをもらい、商談で試したものの、刑事の尋問のようになってしまい、非常に不穏な空気になったのは苦い思い出です。
Fさんの華麗なヒアリングに感動した
そんなとき、商品開発担当のFさんに営業同行してもらう機会がありました。
商談相手は、中小企業の二代目経営者と人事部長。
それまで、窓口である人事部長とは何度か会っていたのですが、はじめてキーパーソンである社長に会えることになり、Fさんの力を借りるべく同行してもらうことになりました。
そして、その商談場面において、Fさんが社長に対して見事なヒアリングを披露してくれたのです。
Fさんは、事前にイメージしたであろう二代目社長についての仮説を元に、ヒアリングに繋げていました。
例えば「経営者というお立場上、○○とかの舵取りが難しいのではないかと思いますが、社長の場合はどうでしょうか?」といった風に。
聞かれた社長は、「まさにそうなんですよ。実はですね・・」と深い課題や本音を話してくれ、Fさんはさらにそれを深掘りしていき、本質課題を探り出していました。
商談の最後には、社長から「Fさんとお話しさせていただくことで、課題が整理されました。自分でもいろんな気づきがあって本当に実りある時間でした。ありがとうございます」という言葉をもらいました。
こちらが知りたかったことをしっかりと聞き出せたとともに、相手からの信頼と感謝も獲得できていました。
Fさんがヒアリングにおいて一番大切にしていたこと
帰り道、Fさんと話していてわかったのですが、驚くことに彼はほとんど営業経験がなかったのです。
「なぜそんなに上手くヒアリングできるのですか?」という私からの質問に対して、Fさんは謙遜しながらも、こう言ってくれました。
この一言を聞いて、スッと腑に落ちました。彼がヒアリング名人である本質的理由がわかったからです。
「そうか! Fさんは『社長が今どんな環境下に置かれており、どのような悩みや苛立ちがあり、どういう状態を望んでいるか?』をありありとイメージした上でヒアリングに臨んだんだな。『相手と同じ絵を見る』とはそういうことなんだな」と。
では、なぜこの「相手と同じ絵を見る」行為が優れたヒアリングに直結するのでしょうか?
「同じ絵を見ようとする」ことで、何が起こるのか?
何と言っても、訪問前に立てる仮説の精度が格段に高まるから。
例えば、上記の二代目社長と同じ絵を頑張って見ようとすると、以下のようなことが想像できるのではないでしょうか?
- 先代から受け継いだ事業を継続し、発展させるために強いプレッシャーを 感じている
- 周囲のベテラン幹部から、「お手並み拝見」という感じで圧を受けている
- 今の環境変化を考えると、事業を早急に変革していかないといけないという危機感を持っている
- が、幹部たちはこれまでのやり方を踏襲するのみで、なかなか変革行動を起こそうとしてくれないことに苛立ちを感じている
- 自分が「変革が急務だ!」というメッセージを強く発しているのに、「笛吹けど踊らず」の状態になっており、自らの力不足を感じている
こうやって、絵を見ようとすることで、状況だけでなく、相手の感情までイメージをしてヒアリングに臨めるのです。
「ヒアリングは仮説の検証の場」というのはよく言われること。
「仮説」という「仮の絵」を元に、深く聞き出すことで、それを鮮明にしていきます。
言い換えれば、仮説立てによって部分的に作成したジグゾーパズルの埋まっていないピースを、ヒアリングによって埋めていき、完成するイメージです。
つまり、ヒアリングとは相手と一緒に「ありたい像」や「課題」を考え、さらなる鮮明な「絵」という作品を協力して作り上げていくプロセスとも言えます。
そうすることで、課題の真因と解決策を見つけ出せるだけでなく、「この人は分かってくれる人だ」という相手から信頼も勝ち得るのは当然と言えるのではないでしょうか?
素晴らしいヒアリングは、話し手も感謝してくれる
後日談になりますが、私はFさんからの珠玉の言葉である「同じ絵を見ようとする」を意識して次の商談に臨んでみました。
すると、自分の想定以上に非常にヒアリングがうまくいき、商談の最後には、お客さんに「うまく整理してくれて、ありがとうございました」と感謝されました。
その後ほどなくして受注につながったこの経験は、自分にとってブレイクスルーになりました。
皆さんもヒアリングに臨む際には、「相手と同じ絵を見ようとする」を実践してみて下さい。
きっと活路が開けるにちがいありません。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。