先日、昔の部下であるTさんと20年ぶりくらいに話す機会がありました。しっかり昔話に花を咲かせたのち、彼がこう言ってくれたのです。
「今の自分があるのは、西野さんのおかげです」と。
それを聞いて、私はすぐさま「いやいや、その言葉をそっくりそのままお返ししますよ。私こそ、Tさんのおかげで今の自分があると思ってます」と返答しました。これは、決して綺麗ごとなんかじゃありません。
私は、常々「上司が部下を育てる以上に、部下が上司を育てる」と思っているからです。
特に、Tさんの上司時代は私もまだ若く、未熟だったこともあり、その思いが強いですね。
ターニングポイントになったTさんからのひと言
Tさんとの「オン飲み」のあと、しばらく物思いにふけっていると、彼とのある出来事が頭の中によみがえりました。
当時、Tさんは素質はあったものの粗削りだったこともあり、私はかなり厳しく指導をしていました(当時は全体的に「部下は厳しく育てよ!」という風潮でもありました)。自分としては、一生懸命指導していたつもりですが、なかなか思うように育ってくれず、正直苛立つことも度々ありました。
そんなある日、いつものように「がっつり」改善点をフィードバックをしていると、半分キレ気味にTさんにこう言われたのです。
「西野さん、そんなに一遍にいろいろ言われても、できませんよ!」と。
一瞬カチンと来て、ビシッと言って聞かそうと思ったのですが、喧嘩のようになるかもしれないと思い、そのときは一旦私が引く形になりました。
その夜、自宅のベッドの中でいろいろと考えているうちに、自分の至らなさに気づいてきました。
「確かに、『こうあるべき』という基準を一方的に押し付けているだけかも」
「Tさんの目線に全然降りていっていない。自己満足の指導者だな・・」
そんなことを痛感させられ、恥ずかしくなるとともに、自分の至らなさに相当凹みました。
翌日一番でTさんに謝りに行きました。
彼も「私もちょっと感情的になってしまい、失礼いたしました」と言ってくれ、すぐに和解に至りました。
育成における「負のスパイラル」とはどういったものか?
この出来事は、私の指導者人生にとってターニングポイントになりました。それは、「育成において陥りがちな負のスパイラル」に気づけたことです。
ここで言う「負のスパイラル」とは以下のようなものです。
そして、この根幹の原因が、「こうあるべき」という高すぎる基準をもとに、一足飛びに改善させようとするところにあります。
私のTさんへの指導がまさにこの状況になっていたのです。
負のスパイラルに陥らない育成法
では、この「負のスパイラル」を避け、着実に成長の階段を登らせるにはどうすればいいのでしょうか?
ずばり、指導者が
「この人を『1つ上のステージ』に引き上げるにはどうするか?」
と常に自問しながら指導することです。
具体的には、指導の際、一度にたくさんの改善指摘をせず、まずはその人のスイートスポット(センターピン)に絞り、改善を促します。
もちろん、スイートスポットの見つけ方は簡単ではありませんが、そのコツ・指針はあります。
一言で言うと、「難易度=低」×「影響度=高」のパートを探すこと。
つまり、今のこの人でも何とかできそうで、かつ改善すると影響度や波及効果が高いものを選ぶのです。
プレゼンの指導を例にした具体的な育成法
例えば、あるメンバーのプレゼンテーション力を伸ばそうとあなたが考えて、指摘をするとしましょう。
今の能力レベルを客観的に分析すると、「メッセージの作り方も下手。論理構成もグチャグチャ。話し方に関しても元気がなく、自信なさげ」といった風に、改善点だらけ。
ただ、一度に全部指摘すると、前述のように相手をつぶすだけです。
そこで、まずは論理構成の部分に絞ります。
たとえば、「ここで使われているフォーマットを参考にして、○○さんもプレゼンを構成してみたら?」とアドバイスします。
もちろん、その理由や使い方のポイントも含めて指導します。それでまずは見守ってあげましょう。
そうすると、「わかりやすいプレゼンじゃないか」と周囲から言われたりして、本人が小さな自信を持ち始めます。
そのバーを少しクリアできたと思ったら、次に「もう少し口を縦に大きく開けて、日常から3割増しの声で話してみない?」とアドバイスします。
そうやって、階段を1つずつ登っていかせると、ある時から「成長→自信→チャレンジ→さらなる成長」の「正のスパイラル」が回りはじめます。
そうなれば、しめたものです。
成長が加速していき、周囲から「あいつは伸びたな、化けたな」といった評価までもらえるかもしれません。
指導する側もされる側も共に成長できる
さきほどのTさんは、あの出来事のあとメキメキと実力を伸ばしてくれました。
今は、ある企業の要職でバリバリ活躍されている、超やり手のビジネスパーソンになっています。
やはり、こういったことがあるから、指導することはやめられません。
指導を通じて、指導「する方」も「される方」も互いに成長できる。それが私が今研修講師をライフワークにしている大きな理由の一つ
でもあります。
私自身、指導する人間としてまだまだ成長していきたいと日々渇望しています。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。