すらすらと話ができるトークスキルは、業界や職種を問わず、多くの企業で役立つ技術です。
顧客との対話が売上を大きく左右する接客業やプレゼンや交渉を行う機会が多い営業職はもちろんのこと、社外の人と接する機会が少ない人であっても、円滑に話せるスキルがあれば上司への報告や社内連絡、相談が楽になります。
逆に、人前で何か話そうとするとうまく言葉が出てこないという人からすると、社内のちょっとした口頭連絡ですら苦痛に感じがちです。
業務のストレスを減らし、社内外の人間関係を円滑にするトークスキルはどうやったら身につくのでしょうか?
いざというときに言葉が出てこないという現象には、明確な原因があります。今回は、その原因を分析した上で、パターンごとに最適なトレーニング法を紹介します。どれも手軽に取り組めるものばかりなので、トークに苦手意識がある人はぜひチェックしておきましょう。
いざというときに言葉が出てこない原因は何なのか?
「うまく言葉が出てこない」という状況を改善するには、まず何が問題なのか、根本的な原因をきちんと把握しておく必要があります。
年齢や性別を問わず、適切なトレーニングさえ行えばトークスキルの改善は可能です。
ただし、アプローチの方向性を間違えてしまうと、期待したほどの改善が見込めず、いつまで経っても問題解決に至らないため、注意が必要です。
これまでに言葉が出てこずに苦労した場面を思い浮かべながら、根本原因を分析していきましょう。
苦手なのはインプット?アウトプット?
自分が頭で考えていることや感じていることを言葉で表現するためには、インプットとアウトプットの2種類の行為が必要です。
- インプット:言いたいことを口に出して表現するための語彙をしっかり蓄えておく
- アウトプット:蓄えておいた語彙を引き出し、状況に応じて組み合わせて口に出す
すらすらと話せる状態とは、インプットの量が十分にあり、かつアウトプットのスピードが早いということです。
逆に、言葉が出てこない状況によく陥ってしまう人は、インプットとアウトプットのどちらか、あるいは両方に何かしらの問題が生じていると考えられます。
つまり、言葉が出てこない原因は次のどちらか、もしくは複合だといえるのです。
- 記憶の引き出しの中にそもそも必要な語彙が入っていない(語彙力不足)
- 使いたいときに記憶の引き出しをうまく開けられない(想起力不足)
もし単なる語彙の不足が原因であれば、話したい内容の関連資料を事前にたくさん調べておけば対処可能なはず。ところが実際のところ、事前にできる限り準備をしたにもかかわらず、言葉がでてこないという経験をした事がある人もいるのではないでしょうか?
十分な量をインプットしたはずなのに言葉が出てこないという場合、語彙力と想起力を司る脳がうまく働いていないのが本質的な原因だと考えられます。
語彙力・想起力を司る脳のメカニズム
言いたいことを口に出して言葉で伝えようとする際、人間の脳のなかでは、新しい記憶を保管する役割を持つ「海馬」と、思考や判断を司る「前頭葉」が働いています。
海馬の機能が落ちていると、記憶力が低下するため、どれだけインプットしても覚えられないという状態になります。
また、前頭葉の働きが鈍っていると、状況に応じて何を言えばいいのか判断ができなくなり、適切な語彙を組み合わせられなくなります。特にアドリブが必要なタイミングで言葉が出てこない場合は、前頭葉がうまく働いていない可能性が高いでしょう。
したがって、すらすらと話せるようになりたいのであれば、脳機能を回復させるアプローチを考える必要があるのです。
脳機能を低下させる3つの原因
脳機能が低下する理由は、病的な原因を除くと大きく分けて「加齢」「ストレス」「睡眠不足」の3要因が大きいといわれています。
このうち、「加齢」については基本的には自分でコントロールできません。ただし、最近の脳科学の研究によると、年齢を重ねたとしても脳の一部では神経細胞が作られており、脳に適切な刺激を与えるためのトレーニングをすれば脳機能を改善できることが明らかになっています。
より直接的にコントロールが可能な「ストレス」と「睡眠不足」の悪影響を減らし、いかに脳機能を活性化できるかが、言葉がでてこない悩みを解決するためのポイントといえるでしょう。
すらすら話せるようになるためのトレーニング:ストレス対策編
脳機能を低下させる3要因のうち、特にトークスキルと深く関係しているのが「ストレス」です。
- あまり親しくない人の前だとうまく話せなくなる
- 1対1なら問題ないが、多人数の前だと言葉につまる
- 重要な商談などプレッシャーが大きい場面で口が動かなくなる
など、人によってそれぞれストレスを感じやすい場面というのがあるでしょう。普段は問題なくスムーズに話せるのに、シチュエーションによって言葉が出てこない場合、ストレスを軽減するためのトレーニングが最も効果的です。
ストレスに対処するためのトレーニング法を3つ、ご紹介します。
呼吸法の習得
人間の体は、ストレスを感じると交感神経が優位に働くため、呼吸が浅くなりがちです。したがって、意図的にゆったりと呼吸することで緊張を緩和できます。
呼吸法の基本は、腹筋を使って、ゆっくり長く吐くこと。以下のやり方を参考に、日頃からトレーニングしてみましょう。
- 口からゆったりと息を吐き出す
- 鼻から深い息を吸う(3秒程度)
- 4秒くらい息を止めてから、腹筋が固くなっているかを確認
- 16カウントから20カウントを目安に、口から細く長く息を吐き出す
腹筋が固くなっているかどうかは、おへそから5センチ~10センチ下の丹田と呼ばれる部位をさわって確かめるとよいでしょう。
肩が上がり下がりしている場合は、胸式呼吸になってしまっているので改善が必要です。
イメージトレーニング
想定したシチュエーションでのスピーチやトーク経験が不足している場合、ほとんどの人は強いストレスを感じます。いきなり場数を増やすことはできないため、イメージトレーニングを活用してストレスを軽減しましょう。
特に、できるだけ本番に近い環境を用意した上でイメージトレーニングを何度も繰り返し行うと、緊張で頭が真っ白になるような事態を防ぎやすくなります。
またYouTubeなどを利用して、スピーチやトークが上手な人の話術を意図的に真似る方法もトレーニングとして非常に効果的です。
瞑想のトレーニング
「今、ここ」に意識を集中させる瞑想は、集中力を高め、ストレスを軽減してくれる効果があることが様々な研究を通じて証明されています。
瞑想は時間や場所を選ばずに行えるので、重要な商談やプレゼンなどの直前で気持ちを落ち着けたいときに役立ちます。
慣れないうちは瞑想に集中できないという人も多いので、日常生活の中でトレーニングを習慣化しておくとよいでしょう。
通勤電車の中やオフィスでもすぐにできる方法としては、立ったまま出来る瞑想や椅子に座る瞑想がおすすめです。どちらの場合も背筋を伸ばしつつ、肩の力を抜いた姿勢で行うのがポイント。目は閉じなくても構いません。
具体的には、呼吸が自然に整うまで待ってから、地面に接している足裏や関節の感覚、全身を巡る血液の流れや心臓の鼓動に意識を向けていくだけです。
1日5分程度でいいので、できるだけ毎日行うようしていくと、脳が瞑想状態に入りやすくなるのでおすすめです。
すらすら話せるようになるためのトレーニング:脳機能の向上編
シチュエーションに関係なく話をするときに言葉が出てこなくなる場合は、インプットとアウトプット両面から脳機能を鍛えていくのがおすすめです。
すぐに取り組めるトレーニング法を3つ紹介します。
ライティング力を磨く
分が言いたいことを分かりやすく書いて伝えるライティングは、語彙のインプットとアウトプット、両方を磨くことができる方法です。
たとえば社内での報告書や業務日報など業務上必要な書類を仕上げる際に、「他人に理解してもらえるように書く」ことを意識するだけでもトレーニングになります。
上司や同僚などからのフィードバックがあれば、さらに効果的でしょう。
朗読を習慣づける
耳で聞いたほうがインプットしやすい人なら、文章を読んで口に出す朗読も効果的なトレーニングになります。
文字を目で見て、口を動かし、耳からさらに音を拾う朗読は、視覚・聴覚・体感覚全てからの刺激を脳に加えることができるのです。
スピーチのように事前に原稿を用意している場合は、くりかえし朗読しながら、話す内容を頭に入れておくとよいでしょう。
人と話す機会を増やす
人と話す機会を増やすというのも、脳機能の向上に役立ちます。
特に、自分が知らない知識や経験を持つ異業種の人と話す場合は、未知の情報をインプットしながらアドリブで話をしていくことになるため、海馬や前頭葉がより活発に働きます。
ちょっとした雑談でも、相手の話に関心を持ちながら話を広げていけば、どんどんトークの経験値が増えていきます。
リスクが少なめの場を積極的に活用し、会話のキャッチボールをトレーニングしていきましょう。
まとめ
人と話をするときに言葉が出てこなくなるという人は、人と話をする場に対して苦手意識を持ちやすい傾向があります。
苦手意識をそのままにしておくと、無意識のうちに人と話す機会を減らしてしまうため、ますますトークスキルが落ちていくといった悪循環に陥ります。
今回紹介したトレーニング法は、トークが苦手な人でも気軽に取り組みやすいものばかりを選びました。どの方法もコストがかからず、すぐにでも始められるので、ぜひ試しに取り入れてみて頂ければと思います。