今日は私が注目している、世界で活躍するある日本人を紹介させてください。
彼の名前はRio Koike。
ニューヨークのブロードウェー・コメディークラブを中心に活躍している、アメリカではトップクラスのコメディアンです。
少しでも人気に陰りが出ると、すぐさま別の人間にポジションを奪われる厳しい世界の中で、もう10年以上にわたってトップの座を維持し続けています。
私は彼のことを直接は知りません。
実はまだ舞台を見たこともありません。
彼のインタビュー記事を見たときに、その生きざまにすっかり共鳴し、虜になってしまったのです。
今度ニューヨークに行く機会があったら、ぜひブロードウェー・コメディークラブに足を運びたいと思っています。
Rioは日系2世でもなければ、帰国子女でもありません。
愛知県生まれ愛知県育ちの日本語を母国語とする生粋の日本人です。
26歳のときに、ダンサーになることをめざして渡米。
夢は叶わず一度は帰国しますが、今度はコメディアンになることを志して、30歳を過ぎたときに再びアメリカに渡ります。そして5年の下積み生活を経て、レギュラーの座を掴んだのです。
ではなぜ私は、彼に強い共感を覚えるのでしょうか。
それは彼が、とてつもなく高い壁に挑戦し続けているからです。
日本人が、エンターテインメントの本場であるニューヨークで英語でジョークを言って、アメリカ人の観衆を笑わせる。これがどれだけすごいことかは、容易に想像がつきます。アメリカ人の心の機微や笑いのツボ、英語の微妙な言葉のニュアンス…。
そういったものをすべて掴んでおかないと、観衆の心を動かすことはできません。
それが彼にはできているわけです。
ただし私が彼について関心があるのは、そういうところではありません。
もし彼が稀に見る「笑いの天才」や「語学の天才」で、そのセンスを武器に活躍しているのだとしたら、「ふーん、すごい人がいるんだな」という感想で終わったことでしょう。
しかしRioは違います。
インタビューに答えて、そう発言しています。
彼はネタ作りのときには、1000個から2000個のネタをノートにメモするといいます。そしてアメリカ人のことをよく知っているニューヨーク在住の5人の日本人の前で、新ネタを披露するのだそうです。
彼らはネタに対してものすごくシビアで、めったに笑ってくれません。
そして「悪くないんじゃない?」と評価されたネタだけを本番の舞台に持っていく。そうすると100%受けるといいます。
ちなみに彼らの厳しいフィルターを通るネタは、1000個か2000個作ったうちのたったの1個か2個です。
逆にいえば、その1個か2個のネタのために、1000個や2000個ものネタを作っている。
つまりセンスではなく、すさまじい努力によってトップコメディアンであり続けているわけです。
Rioはまたこんな努力もしています。
彼はまず舞台で話そうと思っている内容を、アメリカ人の知人に一文一文読んでもらい、それを録音します。そしてその一文一文を1000回ずつ聞いて、自分のものにしたうえで本番に臨むのです。
「オーディションでも舞台でも、緊張すると、いちばん根っこに残っているものしか出てこない。普段の半分以下の力しか出せないので、だからこそ1000回くり返してしっかり定着させる必要がある」と彼は言います。
Rioがアメリカで成し遂げていることを知ると、英語プレゼン研修も指導する身として、ものすごく励まされます。
受講者の中には、英語プレゼンを苦手にしている理由として、「自分は日本で生まれ育ってきたので、英語もプレゼンも子どものときにセンスを磨く機会がなかった」ということを言い訳にする人がいます。
でも、センスがなくたって「世界を相手に勝負できる」ほどになれる、ことを、Rioのおかげで、より一層自信を持って言えるようになりました。
もっと高みを目指したいのなら、
「日本人は英語が苦手だから」
「日本人は人前で話す訓練を子どものときから受けてこなかったから」
ということを言い訳にしている場合ではありません。
そうしたハンディは、努力次第で十分に乗り切ることが可能であることを、Rioの生き方が示しています。
私に与えられたミッションは、どれだけ多くの受講者に、「覚悟を決めて徹底的にやり切れば、自分だって必ずできるはずだ」と、本気で思わせられるかどうかです。
もちろん研修を受けたあとに、努力を継続することができるかどうかは本人次第です。
でも研修を通じて、彼らの心に意欲の火をつけることや、努力の継続の仕方を伝えることなら私にもできる。
そうした思いを胸に抱きながら、より一層真剣勝負で研修講師の仕事に臨みたいと思います。
Rioに負けない闘志と執念を持って。