世界一のプレゼンターのスピーチを聞いて思ったこと
先日、久しぶりに強烈な体験をしました。
私はToastmastersという、アメリカ発祥の英語のスピーチクラブに長年所属しています。
そこでは、全世界的に「スピーチコンテスト」というのを定期的に開催しており、その『元世界チャンピオン』のスピーチを生で聞く機会がありました。
その人の名は、Craig Valentine。
今は、その実績を生かして、スピーチのコーチをしているそうです。
彼のスピーチがすごかった。まさに「Amazingly Great!」というにふさわしいものでした。
私は仕事柄、人のスピーチやプレゼンを見るときに、無意識に分析をしてしまうのですが、今回はそれを忘れてしまうくらい、聴衆を引き込むスピーチでした(まあ、終わってから慌てて分析をしましたが(笑))。
何がどう優れていたか、という説明はまた別の機会でじっくり。
今回は、別の観点で私なりに感じたことをお話ししたいと思います。
そのスピーチを聞き終わっての感想を一言で言うなら、「ショッキング」でした。
『圧倒的な敗北感』と言っていいでしょう。
私自身、曲がりなりにもプレゼンを教えることを生業としており、これまで数万人の方に指導してきました。したがって、自分のプレゼンにもそれなりの自信を持っていました。
それを見事に打ち砕かれるほどの経験でした。
ということを気づかされたのです。
そんな中、今回の経験を通じて学んだ一番のポイントは、「一流を見ることの大切さ」です。
私がセミナーの中でよく使っている「ポジティブ・エンジン」「ネガティブ・エンジン」の2つのモチベーションという観点からもう少し紐解いてみたいと思います。
まずは、順序を逆にして「ネガティブ」の方から。
「ネガティブ・エンジン」とは、「このままではいけない」という風に自分の危機感を煽ることです。
Valentine氏のスピーチを見て、正直悔しかった。
他人のプレゼンを見て「悔しい」という感情を持ったのは、久しぶりでした。
そういう意味で、結構落ち込みました。
いわゆる「ショック療法」という観点のモチベーションアップになったと思います。
実はもうひとつ、この「一流を見ることによるネガティブ・エンジン」の良い側面があります。
それは「自分の失敗体験による落胆ではない」という点です。
負のトラウマを持つ、言い換えればメンタルにダメージを受ける、ということなしに、やる気に火をつけることが出来る点です。
一方、「ポジティブ・エンジン」とは、目標やなりたい像・ありたい像を描き、それによって自分のモチベーションを引き上げること。
「ああいうスピーチ・プレゼンができるようになりたい。目指すぞ!」という目標意識が明確になることでやる気に火をつける方法です。
「一流」を見る、体感することは、それによって具体的な「映像としてのイメージ」が持てるので、よりゴールも鮮明になります。
とりわけ「一流を見ること」による、一番の大きな意味は、「自分の基準値」が上がるという点。
「これ位は自分は出来て当然」「ここまでできるようになるまではダメ」といった、自分の中のハードルが自然に上がる、ということです。
たとえば、学生のクラブ活動などの、レベルの高いチームに入ると、仮にそれまで全く未経験であったとしても、全員がある程度以上は必ずうまくなります。
まさに、この「基準値があがる」というメカニズムによって起こっているわけです。
スピーチで言うと、「これがうまいスピーチのレベル」という基準が上がる。
そして、そのために、何をすべきか、どんな努力をすべきか、という思考が働き、よりうまくなる速度が加速するんですね。
私は、今回のValentine氏のスピーチを見て、自分の基準値が上がりました。
これからもっと精進して、世界一を目指すぞ、という気持ちにさせられました。
実は、彼のスピーチを見ながら私は全く別のことを考えていました。私の母のことです。
母は私が幼少のときからいつも「とにかく一流のものをみなさい、一流のものを触れなさい」と言っていました。
その時は、正直言ってその意味がさっぱりわからなかったのですが、今は本当によくわかります。
ちょっと大げさな表現ですが、母の偉大さまで再認識させられた、貴重な経験でした。