from 西野浩輝

部下の意識やスキルに合わせた指導をする

あるとき社内で研修講師を務めながら、上司として部下指導にもあたっている方から、こんな相談を受けたことがあります。

「研修の受講者に指導をするときも、部下に指導するときも同じなのですが、個々のメンバーの意識やスキルが違いすぎて、どうやって指導をすればいいのか迷うときがあります。西野さんはどうされていますか?」と。

私も研修中に同じような場面に出くわすことがよくあります。

こんなとき私は、頭の中に4象限のマトリクスを描いて受講者を4つのタイプに分け、タイプ別に指導の仕方を変えるようにしています。

そうやって、その人の意識やスキルに合わせた指導を心がけているのです。

今回はぜひみなさんの社員指導の参考にしていただきたく、この「マトリクス式社員指導法」についてお話ししようと思います。

マトリクス式社員指導法では、

社員を「スキルがある-スキルがない」「認識している-認識していない」の二つの軸に分け、4つの象限に分類します。

すると

「A:スキルがあり、本人もスキルがあることを認識している」
「B:スキルはあるが、本人はスキルがあることを認識していない」
「C:スキルがなく、本人もスキルがないことを認識している」
「D:スキルはないが、本人はスキルがないことを認識していない」

の4タイプができあがります。

このうちAについては、特別な対策は必要ありません。

元々スキルがあるわけですし、本人もスキルがあることを認識していて、自分のどこが優れているかを把握できていますから、ある程度放っておいても自己の強みや弱みを分析しながらさらなる自己成長を図っていくことができます。

対策が必要なのはB、C、Dの人たちです。

Bタイプ:スキルはあるが、本人は自分のどこが優れているかを認識していない

まずBタイプ「スキルはあるが、本人はスキルがあることを認識していない」は、天才肌というか、その物事が無意識のうちにできているというタイプです。

例えば営業のヒアリングの場面で、お客さんに対して好印象を与えながら、なおかつ深い質問によって相手の潜在的なニーズを探り当てることができている。

あるいはプレゼンの場面で、聞き手を惹きつける魅力的な話し方ができている。

こういう方に「あなたは営業のヒアリングやプレゼンが上手ですね」と話しかけると、「いろいろな方からよくそう言われるのですが、自分ではよくわからないんですよ」という答えが返ってくることがあります。

典型的なBタイプです。

Bタイプに対しては、「きちんとしたスキルを備えていること」と、「自分のどこがどのように優れているか」を認識させる必要があります。

前述した営業ヒアリングでいえば、

「あなたは相手の考えを深掘りするための『なぜ?』という質問と、具体例を引き出すための『例えば?』という質問を、効果的に組み合わせながら聞き出すことができていますよね。また質問や詰問調にならないように、笑顔や冗談を交えながら、話すことができています。だから相手は心を開いて、あなたの質問に答えてくれるのだと思いますよ」

というふうに、その人の営業ヒアリングのどういう点が優れているかを具体的に指摘することで、本人に認識させてあげるのです。

これを行うメリットは、「自分はヒアリングのときに、いつもこんなふうにやっているからうまくいくんだな」というメカニズムを本人に把握させることによって、再現性が高まることです。

誰しも仕事をしていると、ときどき失敗をしたり、スランプに陥ったりすることが出てきます。

けれども仕事がうまくいくときのメカニズムがわかっていれば、うまくいかなかったときには原因を分析し、理性の形に向けて修正を図ることが容易になります。

野球で言えば、自分の理想のバッティングフォームをわかっている選手は、打てなかったときにはすぐにフォームをチェックして、早くスランプから抜け出せるのと一緒です。

Cタイプ:スキルがなく、本人もスキルがないことを認識している

次にCタイプ「スキルがなく、本人もスキルがないことを認識している」場合は、まったく別のアプローチで突破口を見出してあげるのが効果的です。

例えば私は英語プレゼンの研修講師を務めていますが、受講者の中には「自分は英語力がないから、英語プレゼンは苦手だ」とおっしゃる方がたくさんいます。

「英語のスキルがない=自分は英語プレゼンができない」と思い込んでいる人が多いのです。

けれども私は以前、TOEICの点数は600点程度なのに、ネイティブよりも上手な英語プレゼンをした日本人を見たことがあります。

英語プレゼンの良し悪しは「英語力×プレゼン力」で決まります。

その方はプレゼン力がずば抜けて高かったので、英語力には難があっても、素晴らしい英語プレゼンができたのです。

そこで私はいつも「英語が苦手で……」と言う方には、「プレゼン力を伸ばせば十分に対応できますよ」とアドバイスしています。

すると多くの方は「目がウロコが落ちました。それなら自分でもできそうです」とおっしゃってくださいます。

これはほかのことでも同じです。

例えば「自分は話し下手なので、営業には向いていないかも……」と悩んでいる若手のビジネスパーソンがいたとします。

しかし話し下手としても、相手の話をしっかりと傾聴し、課題やニーズを把握できる聞き上手であれば、それが強力な武器になります。

人には必ず短所とともに長所もあります。

「スキルがなく、本人もスキルがないことを認識している人」に対しては、長所を指摘して伸ばしてあげることが突破口となるのです。

Dタイプ:スキルはないが、本人はスキルがないことを認識していない

そしてDタイプ「スキルはないが、本人はスキルがないことを認識していない」場合は、ショック療法によって、「自分には本当はスキルがないんだな」ということを認識させるしかありません。

例えばプレゼン研修で言えば、その人がプレゼンをしているところをビデオ撮りして、あとで本人に見せる。

あるいは受講者の間でプレゼンコンテストを行って、順位をつける。

こうしたことを行えば、本人は否応なく自分の実力を目の当たりにさせられることになります。

ただしショック療法には注意点があります。

あまりにショックが強すぎると、その物事に取り組むこと自体がイヤになってしまうリスクがあることです。

これを避けるためには、個人攻撃や人格否定にならないように細心の注意を払う必要があります。

プレゼン研修で言えば、チェックリストを用意して、できている項目とできていない項目を一緒にチェックしていくといったことを行います。

するとあくまでも客観的な指標に基づいて、その人のスキルを分析しているという体裁をとることができます。

もちろんできていないことがあまりに多すぎるという現実に直面して、ショックは受けるでしょうが、個人攻撃や人格否定をしているという雰囲気は薄れます。

また、できていない部分をチェックすることで、スキルアップに向けて正しい方向へと努力を促すことも可能になります。

社員を4つのタイプに分けて指導法を変えるというやり方は、例に挙げた営業ヒアリングやプレゼン指導の場面以外にも、さまざまなシーンで汎用可能です。

ぜひみなさんもご活用ください。

西野浩輝写真マーキュリッチ代表取締役
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。
西野著書写真

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