プレゼンのときに語れる事例が少なすぎる
最近プレゼン講師として、若手のビジネスパーソンに関して少し気になっていることがあります。
マーキュリッチではプレゼン研修の際に、受講者一人ひとりに模擬プレゼンを行ってもらっています。そのプレゼンの内容を聞いていると、事例の持ち駒が少ないと感じることが多いのです。
ビジネスプレゼンにおいて、相手を説得できる一番の鉄板ネタが他社(あるいは他者)の導入事例です。
「御社と同様の課題を抱えていたある企業の事例をご紹介させていただきます。その企業を取り巻く環境としては、・・・・。その課題の核心的原因になっている×××を解決するために、当社の○○というサービスを導入されました。そうすることで、△△△ということが実現され、最終的にコストを2割削減することができました」
といった導入事例を聞かされると、聞き手はサービスを導入したときのベネフィットを具体的にイメージできるため、心を動かされやすくなります。
ですから私は研修では
「プレゼンのときには必ず導入事例を盛り込むようにしてください。その際には相手がイメージしやすいように、できるだけありありと語ってください」
と話しています。
ところが事例の内容が浅く具体性に欠けていたり、そのときのプレゼンの内容にフィットしていない事例であったりすることが多いのです。
これはなぜか?
事例の持ち駒が少ないからだと私は考えています。
トップ営業マンは、常に同僚からネタを仕入れている
私はこれまで数多くのトップ営業マンにインタビューをしてきましたが、みなさん共通しているのが豊富な事例を持っていることです。
「人を見て法を説け」という言葉があるように、トップ営業マンは相手が抱えている課題や状況に合わせて、たくさん事例のストックの中からフィットする事例を選んで、「実は御社と同じ物流関係のB社でも、こんなことがありまして……」と話すことができます。
そして事例をフックにして、相手から根幹の課題や深いニーズを引き出すことができ、成約にまで結びつけられるケースが多いのです。
私はあるトップ営業マンに「だいたいどれぐらいの事例をお持ちなのですか?」と訊ねたことがあります。
すると
という答えが即座に返ってきました。
では、どうして100個も事例を持っているのかというと、自分自身の経験に加えて、職場の同僚との雑談の中からネタを仕入れているためです。
同僚「いや~、最近お客さんからこういう依頼を受けてね、大変なんだよ」
自分「ああ、そうなんだ。でも何でそんなお願いをされることになったの?」
同僚「それがね。今お客さんの会社でこんな問題が起きていてね……」
といった雑談から、気になる事例をストックしていきます。
そしていざその事例が使えそうな場面になったときには、「以前聞いたあのお客さんのことだけど、もう少しくわしく教えてくれない?」とその同僚にヒアリングすることで、活用できる事例へと磨き上げるわけです。
これが可能になるのは、トップ営業マンは普段から同僚とのコミュニケーションを大切にしているからです。
また何気ない会話の中にも、事例にできるネタが潜んでいないか常に気を配っています。
ですから私は、プレゼンの際に語れる事例のストックが少ない若手のビジネスパーソンに対しては、もっと日頃から同僚と積極的にコミュニケーションをとってほしいと思っています。
またマネージャー職の方々については、「メンバーが気軽に雑談や情報交換ができるような活気のある職場を作ってほしい」と思います。
研修で会社を訪ねた際に、社員のみなさんがオフィスで働かれている様子を目にする機会がときどきあります。
そのときの雰囲気が、好意的に捉えればみなさんパソコンに向かって静かに仕事に集中しているといえますが、悪く捉えれば同僚同士の会話がなく淡々と仕事をしている会社が増えているように感じます。
これが語れる事例が少ないビジネスパーソンが増加している要因の一つではないかと、私は推測しています。
個々の社員がこれまで経験してきた事例をみんなで共有化できれば、顧客にプレゼンや営業活動を行う際の強力な武器になります。
職場での同僚同士の日頃のコミュニケーションの量が、組織の業績を左右すると言っても過言ではないでしょう。
マネージャー職にある方は、ぜひ一度自分の職場の雰囲気を点検し、改善に取り組んでみられてはいかがでしょうか。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。