from 西野浩輝

「社内でコーチングを取り入れている」あるいは「個人で勉強したことがある」という方は、結構な人数になるのではないでしょうか?それほどコーチングは認知され、有効な手段だと考えられています。

しかし、コーチングの考え方も手法も理解しているにも関わらず、現場で使ってみようとすると、上手くいかない。今回はコーチングでよくある問題の1つを、解決方法とあわせてお伝えしたいと思います。

なぜ上司はコーチングで話しすぎてしまうのか?

リモートワークが進み、部下とのコミュニケーションが希薄になりがちな今、コーチングの重要性を見直している企業が増えているようです。それにつれて、当社にもこのテーマで相談いただくことが増加しています。その際、一番よく聞く問題が、上司が話しすぎるというもの。

コーチングの本来の目的は、「部下自らが考え、行動し、成果と成長に繋げるために、コーチがその促進役を果たす」ことです。なのに、コーチ役である上司が話しすぎると、部下本人が自分で気づく機会を奪ってしまうことになり、当然目的は達成されません。

そういった「話しすぎコーチ」へのありがちなアドバイスが「聞き役に徹しましょう!」というもの。

ただし、残念ながらそれだけを口酸っぱく言っても解決しません。なぜなら、そんなことは本人も薄々気づいているから。「頭ではわかっているんだけど、ついそうなってしまう」これが多くの人の言い分なのです。

分かっているのに、話しすぎてしまう理由

この根深い問題を解決するには、もっと根幹の原因に遡って、手を打つ必要があります。

では、そもそもなぜ「つい話しすぎてしまう」のでしょうか?

ひと言で言うと、一生懸命だから。

このことに関するある興味深い実験結果があります。カナダのウォータールー大学でなされた実験です。

被験者を以下の二つのグループに分けました。

①自分の身にトラブルが起こったシーンを想定してもらうグループ
②自分の親しい友達にトラブルが起こったシーンを想定してもらうグループ

その上で、解決策を考えさせました。

結果は、②のグループのほうが、質の高い判断を下せることが明らかになりました。

つまり、人は他人のことは客観視できるため、自分より他者の問題解決の方が得意だということなのです。

このことをコーチングに当てはめるならば、以下のことが言えます。「部下本人が自分で答えにたどり着く前に、上司が答えを見つけてしまう」そして何より、人間は相手に貢献したいという「他者貢献」の根源欲求があります。

すると、以下のようなことが起こるのは、自然の流れでしょう。

「解決策が分かった ⇒ 教えてあげたい ⇒ 語りすぎてしまう」

コーチ役である上司が話しすぎてしまう本質をご理解いただけたと思います。

どうしたら、話しすぎる問題を解決できる?

ではどうすれば、この「話しすぎる」問題を上司自らが解決できるのでしょうか?

一番のポイントは、「視点を先に持っていく」こと。

今を見るのではなく、時間軸を伸ばし、長期的に考えた上でコーチングしてあげるとも言えます。今部下が抱えている問題に対して、答えを教えること自体は悪くありません。ただし、それはあくまで「超短期的」解決にすぎません。

残念ながら、次に問題が発生したときに部下はまた他人に頼ることになり、いつまで経っても自立を果たせません。

それよりもっと大事なのは、この先本人が「自分で」解決策を見つけられるように、導いてあげることではないでしょうか?つい答えを言いたくなったときには、話すこと、教えることをグッと我慢し、「聞くこと」に徹するのです。

「コーチングの際は、視点を先に持っていく」

ご自身がコーチングをする際はもちろんのこと、他のマネジャー、リーダーにもぜひ共有いただければと思います。

西野浩輝写真マーキュリッチ代表取締役
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。
西野著書写真

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