「若手社員が『失敗するのが怖いから挑戦したくない』と言っている。どうしたら挑戦してくれるのだろうか?」と、ここ数年、多くのクライアントから相談を受けます。
失敗するのが怖いと感じるのは、人として自然な反応だと思いますが、失敗を恐れるがあまり挑戦できないのはもったいないですよね。
失敗は成功の基、失敗は成功の母、という言葉があるように、失敗を通じてしか学べないこともあります。
でも怖いものは怖い。怖くても頑張れというのは、いささか無責任な声かけです。
今回は「失敗」や「負け」に対する捉え方とそれらを糧にしていく方法を、競馬界のレジェンド・武豊騎手から得た学びと分析をもとにお伝えしていきたいと思います。
若手への指導のみならず、ご自身にも適用いただける内容になっていると思います。
人生には不本意な結果はつきもの
「負けとどう向き合うかが人生の質を決める」
これは、私が大事にしている考え方の一つです。
人生には「負け」、言い換えると失敗や不本意な結果はつきもの。その事実を正面から受けとめ、成長の糧にすることができれば、能力も人間性も高まっていく。
ただし、これは「言うは易く、行うは難し」ですよね?
事実から目を背け、運や他人のせいにしがちなのも事実。「向き合う」難しさに改めて思いを馳せているときに、ある記事で武豊騎手のエピソードが紹介されているのを見て、感銘を受けました。
なぜならそこに、「負け」と正しく向き合うための神髄が書かれていたからです。
武豊騎手は負けた時にどうするのか?
武豊と言えば、言わずと知れた競馬界のレジェンド。
前人未踏の4000勝という大記録を達成しながらも、今なお現役バリバリで活躍し、どん欲に高みを目指し続けています。私が模範にしている人の1人です。
インタビューの中で彼はこう述べていました。
と。
では、彼は負けたときにどうしているのか?
レースの映像を3回見て振り返るらしい。
そして、それぞれの「回」ごとに明確な目的を持って見ているとのこと。
我々ビジネスパーソンにも参考になると思うので、以下に具体的なやり方を引用します。
- 1回目は普通に見る。主に、自分よりも後方の馬達の動きやラップタイムなど、騎乗時にはわからなかったところに注目する。
- 2回目は仮定の展開を想定しながら見る。「もしここで動いていたらどうなっていただろうか?」とシミュレーションしながら振り返る。
- そして3回目は勝った馬を見る。どういう走りをしていたかを分析し、そこからヒントを得る。
私はこれを読んで、「なるほど!」と腑に落ちました。
彼がどのように負けと向き合い、それをさらなる成長の糧にできているかの真因が分かった気がしたからです。
負けに対しての向き合い方
では、この「負けに対する向き合い方」のどこが優れているのか?
1.フォーカスのあて場所
まず1つは「向き合う」際のつらさを消す工夫をしていること。
「負け」や「失敗」こそ、多くの学び・成長ポイントが凝縮されているのは、誰もがわかっています。
ただ、負けを認めるは大変つらい。
そのため、たいていの人はこの成長のための最良行動である「負け」と向き合うことができません。
その点、武騎手は振り返りを行う際に、「負けてしまった!」という感情にフォーカスを当てるのではなく、「なぜ負けたのか?」という分析にフォーカスを当てます。
振り返りの焦点を感情ではなく、分析に当てることで「つらさ」はかなり軽減されます。さらに、武騎手は振り返りを行う際に、その手順を全てルーティン化しています。
ものごとは億劫なものほど、ルーティン化した方が取り組みやすいものです。
武騎手は、それをよくわかっているなと思いました。
2.視点の持ち方
もうひとつのポイントは、多面的に分析することで、その後の「引き出しの数」を増やしていること。
意図的に視点を変えながら、1つのレースを3回に渡って分析しているのが味噌だと思います。
同じ事象でも、目的や観点を変えて見てみると、その分たくさんの気づきが得られます。
この気づきが多ければ多いほど、「〇〇という状況になったときは、××という手を打つ」「こう動くともっといい」といった『打ち手』『対策』の数をどんどん増やしていけます。
武豊が多くの他の騎手に比べて状況対応力に優れていると言われる所以の1つはここにあるんですね。
この2点の工夫を要約するなら、負けた時にこそ、
(2)複数の観点で
分析する。
それによって、メンタルダメージを少なくし、かつ引き出しの数を増やすことで、自分を永久的に高めていける。
さすが武豊。私が模範にしているだけのことはあります。
私たちビジネスパーソンが武豊流を取り入れるなら?
では、この「武豊流・敗北分析法」を我々ビジネスパーソンはどのように活用できるでしょうか?
例えば、提案プレゼンをしたが、採用されなかったときなどは、もってこいです。
武騎手と同様、3回振り返ります。
【1回目】資料をザーッと見返しつつ、そのときの聞き手の反応を思い出しながら振り返る
【2回目】「イントロの課題提示をこう変えたらどうなっていただろうか?」、「あの質問にどう答えたらよかったか?」等を振り返る
【3回目】自分の話し方に関して他者からフィードバックをもらう。
もちろん、振り返り方や順番はこのやり方以外のモノでもOKです。
とにかくポイントは、客観的に、多面的に振り返ること。
もしこれを武騎手のように、毎回のコミュニケーション機会ごとに行ったとしたら、どうでしょう?
圧倒的な成長スピードによって能力がどんどん高まり、いつの日かビジネス界のレジェンドと呼ばれるようになっているかもしれません。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。