
21年間、私はプレゼンテーションを中心としたコミュニケーション研修・コンサルティングに携わってきました。その中で、ここのところ増えているのが経営者の方々へのマンツーマンプレゼン指導です。というのも、近年IR(投資家向け説明)プレゼンや社員向け方針発表など、重要な場面での経営者のプレゼン力向上が以前にもまして注目されているからです。
では、なぜ注目度が上がっているのでしょうか?
それは、経営者の発信力が社内外の関係者、つまりステークホルダーへ大きな影響を及ぼし、それが業績に直結する時代になっているから。
私は経営者がプレゼン力向上に取り組むことは、非常に意義が大きいと感じています。なぜなら、優れたプレゼンが会社や社会を良い方向へ動かすのみならず、経営者自身が学び続ける姿勢が自然と社員に伝わり、組織全体の成長を後押しするからです。
だからこそ私自身、この経営者のプレゼン指導に今まで以上にやりがいをもって取り組んでいます。
今回は私が経営者のプレゼン力向上のための指導をする際に、特に大切にしている3つのことをお話しします。
1.「Want(目指したい像)」と「Can(強み・個性)」の交点を見つける
経営者コンサルティングの事前ミーティングにおいて、私が本人に必ず聞く質問があります。それは、「あなたがモデルにしたいプレゼンターは誰ですか?」というもの。
つまり、本人がなりたい像としての「Want」です。
その上で、「なぜ目指したいのか?」をさらに深掘りすると、その人のコアの価値観が明確になっていきます。それらを踏まえて指導をすることで、本人のモチベーションが極大化し、上達のスピードが高まります。
もう一つの観点である「Can」について。
プレゼンにおいて、その人の強み・個性といった「Can」を引き立たせることは非常に大事です。ただし、これは自分ではなかなか分からないもの。だからこそ、我々コンサルタントが「その人ならではの個性」を見つけ、引き出して行く必要があります。
そして、この「Want」と「Can」の最適な交点を見つけて、そこに導いていくのが、プレゼン上達の鍵の1つなのです。
この「交点」に関する実例を1つ挙げてみます。
ある経営者の「Want(目指したい人)」がは、ある芸人さんでした。
ただし、その方のキャラ、いわば「Can」は堅実かつ真面目なタイプで、「Want」とは程遠い。表面的に捉えると、全く交点が見つからない感じでした。本人に「なぜその芸人を目指したいのか?」を聞いてみると、「ジョーク等で、雰囲気を和やかにできるプレゼンテーションをしたい」というのが本意。
そこで私がアドバイスしたのが、「無理やり冗談を言うよりは、笑顔によって雰囲気を和らげる」ことや「少し自己開示するエピソードによって人となりを感じてもらうこと」でした。
このように、無理のない範囲で本人がプレゼンテーションで実現したいことを達成させるための「交点」を見つけたのです。
その「交点」を元に、プレゼントレーニングを行うことで、その人の「強み」「らしさ」がより引き立つことになり、才能が一気に開花しました。
今や、多くの社員のお手本になるほどの押しも押されぬ名プレゼンターになっています。
2.フィードバックは敬意を持ちつつも、ダイレクトに行う
私の指導経験上、経営者は他者からの率直なアドバイスを欲しがっています。というのも彼らの多くは成長志向が強い人達であるにもかかわらず、立場上自分のプレゼンに対して耳の痛いアドバイスをしてくれる人がほとんどいないからです。
だからこそ私は全身全霊を込めて、ダイレクトに彼らにフィードバックを行ないます。
ただしその際の2つの絶対条件があります。一つは最大限の敬意を込めて行うこと。彼らの自負心やプライドをしっかり尊重・配慮しつつ、慎重に言葉を選んでフィードバックをする。もう一つが、口幅ったい言い方で恐縮ですが、プロの腕を見せることです。「なるほどその観点はなかった。そうすることで自分は成長できそうだ」と思わせるような本質的な点を突くのがキモ。
経営者は人を見る目がある人が多い。少なくとも本人はそう思っています。だからこそコンサルタントからのフィードバックが彼らのお眼鏡にかなうかどうかが勝負ポイントなのです。
仮にトレーニングのスタート時は、やや懐疑的であっても、「この人のアドバイスは聞く価値がある」と思わせる状況を作れば経営者は驚くほど素直になります。
そうなれば、こっちのものです(笑)。アドバイスをどんどん吸収してくれ、ひいては大きな成長と変貌を遂げていきます。
3.プレゼンの本質を日常に広げること
この一言では少し分かりにくいかもしれません。経営者に対して、私が直接指導できるのは、せいぜい月に1度か2度。その時間だけプレゼン練習にいそしんでも、どうしても成長は限定的になりやすい。
だからこそ、私はトレーニングのはじめに「日常の全ての話す場面をプレゼンテーションと捉える」という考え方を徹底的に刷り込みます。「朝の挨拶」から「部下への指示」「会議での発言」等、全てはプレゼンテーションなんだと。
そうすることで、日々のコミュニケーション自体がトレーニングとなり、「プレゼン筋」が発達します。
つまり、トレーニングセッションと日常実践の相乗効果で、プレゼン力向上が加速します。この「日々是プレゼン」を実践してもらうことが、「プレゼンの本質を日常に広げる」と言う意味なのです。
ここで紹介した3つ、「WantとCanの交点を見つける」「フィードバック」「日々是プレゼン」は究極的には経営者に限ったものではありません。
プレゼンテーション力を伸ばしたい方は、ぜひこれらを適用いただければ、成長が加速し、成果向上につながるはず。
ぜひ実践していただきたいと思います。